【FP1級監修】後継者が受け取る順番と納税資金の置き場所 4つの判断軸
自社株を継ぐことが決まった専務が、ふと不安になる場面があります。「社長に万一があったとき、相続税は誰がいつ、どこから払うのだろう」。
経理担当者も、会社の通帳と個人の通帳は別だと分かっています。会社に資金があっても、それを後継者の納税に使うには、決まった手続きが要ります。
この記事では、後継者が納税資金を受け取る順番と、資金の置き場所を考える4つの判断軸を解説します。非課税枠の仕組みは別の記事に任せ、ここでは「お金の流れ」に絞ります。解説するのは、1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
結論
- 後継者の納税資金は、金額だけでなく、誰が・いつ・どこから受け取るかの順番で決まります。
- 判断軸は、受取人・受け取る時期・資金の置き場所・使い道の4つです。
- 会社のお金は、後継者個人の納税にそのまま使えるとは限りません。税務の個別判断は、税理士の領域です。
この記事で分かること
- 後継者が資金で困る3つの場面
- 順番が見えにくい2つの理由
- 納税資金を考える4つの判断軸
- 足りない場合と重すぎる場合の失敗
- 今週できる確認チェックリスト
1. 後継者が納税資金の受け取りと負担で困る3つの場面
困る場面は、納税の期限・受取人・置き場所の3つで起きます。順に見ます。
1-1. 納税の期限が先に来て、資金が間に合わない
相続税には、申告と納付の期限があります。(出所:国税庁)
一方、死亡退職金は、会社が決議して支払うまで、後継者の手元には届きません。
たとえば、株主総会の決議の準備が遅れると、納付の準備が間に合わないことがあります。決議の日程を、期限から逆算して考えておく必要があります。
1-2. 受取人が、後継者以外の相続人になる
死亡退職金の受取人が、他の相続人になっている場合があります。
そうすると、後継者は自社株の相続税を負担しながら、退職金の受け取りは別の人、というずれが生まれます。
非課税の限度額は、500万円に法定相続人の数を掛けて求めます。相続人以外が受け取る分は、対象外です。(出所:相続税法第12条第1項第6号)
1-3. 資金が会社の中に残り、個人に届かない
会社には、法人が受け取った保険金や内部留保がある場合でも、後継者個人の納税に回すには手続きが要ります。
経理担当者が会社の預金を見ても、そのまま払い出せるわけではありません。自己株式の取得などの手続きは、分配可能額の範囲内に限られます。(出所:会社法第461条)
要するに、期限・受取人・置き場所の3つが、後継者の納税資金を左右します。
2. 納税資金の流れが見えにくい理由
見えにくい理由は、会社と個人の財布が別であることと、手続きの順番が専門的であることの2つです。整理します。
2-1. 会社の財布と個人の財布は別
社長が会社を自分のものと感じていても、法律上は別の存在です。会社のお金の動かし方には、決議や規程が必要です。
後継者の側も、会社に資金があると聞いて安心していたら、使い道が限られていたということがあります。
2-2. 手続きの順番が専門的
退職金の決議、相続税の申告、株式の名義の変更は、それぞれ担当する専門家が違います。
誰も全体の順番を引き取らないと、日程が重なったり、抜けたりします。
たとえば、決議の準備を後回しにして、申告の間際に慌てる流れです。
要するに、財布の違いと手続きの順番が、納税資金の見通しを悪くします。
3. 後継者の納税資金の置き場所を決める4つの判断軸
判断軸は、受取人・受け取る時期・置き場所・使い道の4つです。全体を表で整理します。
| 判断軸 | 考えること | 確認する相手 |
| 1. 受取人 | 退職金や資金を、誰が受け取る形にするか | 社長・弁護士・税理士 |
| 2. 受け取る時期 | 決議から支払いまでの日程と、納付の期限 | 顧問税理士 |
| 3. 資金の置き場所 | 個人の預金・会社の内部留保・法人契約の保険金など | 税理士・FP1級 |
| 4. 使い道 | 納税・他の相続人への支払い・運転資金のバランス | 社長・経理担当者 |
- 相続税の納付の期限から逆算し、死亡退職金の決議と支払いの日程を並べます。
- 受取人を誰にするかを、他の相続人の事情も含めて決めます。
- 資金の置き場所を、個人と会社の両方で書き出します。
- 納税と運転資金のバランスを、経理担当者と確かめます。
死亡退職金は、死亡後3年以内に支給が確定したものが、相続税の対象になります。(出所:相続税法第3条第1項第2号)
法人が契約する保険の保険金は、承継・相続の資金を用意する目的のひとつです。受け取った保険金は益金になるため、受け取り後の資金の動きも見ます。(出所:法人税法第22条第2項)保険料の損金算入は、2019年(令和元年)の通達改正後の扱いで、契約の種類により変わります。経理処理は税理士の領域です。
非課税枠の考え方は死亡退職金の非課税枠と受取人を決める判断軸で解説しています。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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要するに、受取人・時期・置き場所・使い道の4つを、日程と合わせて決めます。
4. 納税資金の準備で起きやすい失敗|足りない場合と重い場合
失敗は、備えが薄い場合と、備えを抱えすぎる場合の両方にあります。社長は決める立場、経理担当者は支払いに気づく立場です。
4-1. 備えが足りない場面
- 後継者に資金の置き場所を伝えていない:社長に万一があったあと、後継者が納税の資金を自力で探すことになります。
- 受取人を決めていない:相続人どうしで退職金の受け取りを巡り、話が止まります。
- 決議の日程を考えていない:納付の準備に、会社の手続きが間に合いません。
4-2. 備えが重すぎる場面
- 納税資金を会社に積みすぎる:経理担当者が月末の資金表を見ると、運転資金が細り、賞与や投資を控えています。
- 退職金を大きくしすぎる:不相当に高額な部分は損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)会社の資金繰りも苦しくなります。
金額は、毎年の決算の数字を見ながら、税理士と見直します。
要するに、置き場所を決めないことも、積みすぎることも、後継者と会社の負担になります。
5. 今週できる納税資金の流れの確認チェックリスト
今週は、日程と受取人の2つを書き出します。
- 万一の場合に、決議から支払いまでにかかる日程を書き出した。
- 死亡退職金の受取人を、誰にするか社長が考えを整理した。
- 自社株を継ぐ人が、会社のお金をどう受け取る想定か確かめた。
- 他の相続人の状況を、家族の話し合いの材料として書き出した。
- 納税資金の候補を、個人と会社に分けて並べた。
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6. 後継者の納税資金に関するよくある質問
Q1. 後継者の納税資金は、会社のお金を使えますか。
会社のお金は会社のもので、後継者個人の納税にそのまま使えるわけではありません。死亡退職金として支給する、自社株を会社に買い取ってもらうなど、手続きを経た受け渡しが必要です。個別の税務は税理士にご確認ください。
Q2. 死亡退職金の受取人を後継者にすると、どうなりますか。
退職金は、会社の決議と規程にもとづいて、遺族や相続人へ支給されます。相続税の非課税限度額は500万円×法定相続人の数で、相続人以外が受け取る分は対象外です。(出所:相続税法第12条第1項第6号)
Q3. 死亡退職金は、いつまでに支給が決まれば相続税の対象になりますか。
死亡後3年以内に支給が確定したものが対象です。(出所:相続税法第3条第1項第2号)決議の時期と申告の時期の関係は、顧問税理士に確認してください。
Q4. 後継者が受け取った退職金は、そのまま納税に使ってよいですか。
納税に使える場合が多いですが、受け取る額や時期は会社の決議で決まります。納付の期限に間に合うか、手続きの日程を逆算して確認してください。期限の詳細は国税庁の案内か税理士で確認します。
Q5. 他の相続人との公平は、どう考えればよいですか。
後継者だけが退職金を受け取ると、他の相続人が不公平と感じることがあります。遺留分侵害額請求は金銭で請求できます。(出所:民法第1046条)感情面も含め、早めに家族で話し合います。
Q6. 法人で保険を使って、納税資金の置き場所にできますか。
承継・相続の資金を用意する目的のひとつとして、法人が契約する保険の保険金を原資にする考え方があります。損金算入の扱いは契約の種類で変わり、2019年(令和元年)の通達改正後の取扱いを税理士と確認します。
7. まとめ
- 後継者の納税資金は、誰が・いつ・どこから受け取るかの順番で見通しが変わります。
- 判断軸は、受取人・受け取る時期・資金の置き場所・使い道の4つです。
- 会社のお金は、手続きを経て受け渡します。
- 税務の個別判断は、税理士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。後継者の方と会社の資金の状況をもとに、資金の流れを一緒に整理します。
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筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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