【お役立ち】死亡退職金を後継者へ渡す規程の定め方 4つの手順
後継者に自社株を渡す準備を進めている社長が、ふと手を止める場面があります。「会社の万一資金は、後継者の手元に届いてほしい。けれど、他の子から不満が出るのも避けたい」。
経理担当者も、死亡退職金が自動で後継者に渡るわけではないことを知っています。誰に、どんな根拠で支払うのかが決まっていなければ、その場で迷います。
この記事では、死亡退職金を特定の人に渡したい場合の規程の定め方と、争いの予防を中心に解説します。非課税枠そのものの詳しい解説は別の記事に任せ、ここでは「定め方」に絞ります。解説するのは、1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
結論
- 特定の人に渡すには、規程で受給権者を定め、株主総会の決議の手順を整えるのが一般的な方法です。
- 非課税枠や弔慰金の範囲には限度があり、受け取った死亡退職金が固有の財産か遺産分割の対象かは、規程の文言や経緯で判断が分かれます。
- 定め方の最終判断は、弁護士・税理士に確認が必要です。
この記事で分かること
- 後継者に渡したいときに起きやすい3つの場面
- 定め方が後回しになる理由
- 規程・決議・非課税枠の一般的な制度と、法人保険の使い方
- 備えが足りない場合と重すぎる場合の失敗場面
- 今週できる確認チェックリスト
1. 死亡退職金を特定の後継者に渡したいときの3つの悩み
悩みは、渡したい相手・他の相続人の気持ち・会社の手続きの3つで起きます。順に見ます。
1-1. 後継者に現金を渡す根拠がない
後継者は、自社株を引き継ぐ一方で、相続の話し合いのための現金を持っていないことがあります。
たとえば、社長が口頭で「死亡退職金は後継者に」と話していても、規程がなければ、経理担当者は支払いの根拠を示せません。
1-2. 他の相続人が不公平と感じる
後継者だけが死亡退職金を受け取ると、他の相続人が不公平と感じることがあります。
受け取った死亡退職金が、受け取った人の固有の財産なのか、遺産分割の対象になるのかを巡って、話し合いが止まることもあります。
1-3. 会社の手続きが整っていない
取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)
社長に万一があったあと、残された取締役や株主で決議をしようとしても、日程や金額の考え方がまとまらないことがあります。
要するに、根拠・公平感・手続きの3つが、特定の人に渡したいときの悩みです。
2. 定め方が後回しになる理由
後回しになる理由は、争いは起きないと考えることと、書き方の難しさの2つです。整理します。
2-1. 家族なら話し合えると考える
親子や兄弟の仲が良いほど、「揉めるはずがない」と考えがちです。
ただ、相続の場面では、配偶者や孫など、関わる人が増えます。事前に決めた形がないと、それぞれの考えがぶつかります。
2-2. 書き方と手続きが専門的
受給権者の範囲、順位、弔慰金との分け方、決議の手順は、弁護士・税理士・社会保険労務士の領域にまたがります。
誰に最初に相談するかが決まらず、先送りされることが多くあります。
要するに、「揉めない」という思い込みと、専門的で相談先が見えにくいことが、後回しの理由です。
3. 特定の人に渡す規程の定め方|4つの手順と法人保険の使い方
一般的な制度は、役員退職慰労金規程と弔慰金支給規程で受給権者を定め、株主総会で決議する方法です。全体を表で整理します。
| 手順 | 決めること | 確認する相手 |
| 1. 受給権者 | 誰に、どの順位で支給するか。範囲と順位を規程に書く | 弁護士・税理士 |
| 2. 退職金と弔慰金の分け方 | 弔慰金の範囲と、死亡退職金との切り分け | 顧問税理士 |
| 3. 決議の手順 | 株主総会の決議の時期と進め方 | 社長・株主・税理士 |
| 4. 資金の置き場所 | 支払いの原資を、会社のどこに置くか | 税理士・FP1級 |
3-1. 手順1と2|受給権者を定め、弔慰金との分け方を決める
規程で受給権者の範囲と順位を定める方法があります。最高裁は、規程で受給権者の範囲と順位が定められている死亡退職金を、受給権者固有の権利とした例があります。(出所:最高裁判所 昭和55年11月27日判決)
ただし、固有の財産になるか遺産分割の対象になるかは、規程の文言や経緯で判断が分かれます。死亡退職金には、遺族の生活を守る性質(受け取った人の固有の財産とされる方向)と、賃金の後払いの性質(遺産分割の対象とされる方向)の2つがあるとされ、支給の根拠や経緯、支給基準などの事情を総合して判断されます。固有の財産とされる場合でも、他の相続人から特別受益として相続財産に加えるべきだと主張される可能性があります。後継者に渡す定め方が、そのまま認められるとは限りません。弁護士に確認してください。
弔慰金は、業務上の死亡であれば死亡時の役員報酬月額(従業員は普通給与)の36か月分、業務外の死亡であれば6か月分までが弔慰金として扱われます。(出所:相続税法基本通達3-20)これを超える部分は退職手当金等として扱われ、500万円×法定相続人の数の非課税枠の対象に加わります。個別の扱いは顧問税理士に確認します。
3-2. 手順3|株主総会の決議の手順を整える
退職慰労金の決議は、会社法第361条第1項にもとづきます。規程に決議の手順を書き、いつ、誰が、何を決めるかを整理します。
金額が不相当に高額な部分は、損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)
3-3. 手順4|資金の置き場所と、非課税枠の限度
死亡退職金の相続税の非課税限度額は、500万円に法定相続人の数を掛けて求めます。(出所:相続税法第12条第1項第6号)相続人以外が受け取る分は、対象外です。死亡後3年以内に支給が確定したものが対象です。(出所:相続税法第3条第1項第2号)死亡退職金の非課税枠は、個人が契約した生命保険の死亡保険金の非課税枠(相続税法第12条第1項第5号)とは別に使えます。
法人が契約する保険は、支払いの原資を会社に置く方法のひとつです。受け取った死亡保険金は、会社の益金になります。(出所:法人税法第22条第2項)保険金が入っても、支払いには規程と決議が必要です。保険料の損金算入は2019年(令和元年)の通達改正後の扱いで、契約の種類により変わります。税理士に確認します。
非課税枠の考え方は死亡退職金の非課税枠と受取人を決める判断軸で解説しています。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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要するに、受給権者・弔慰金の切り分け・決議・資金の置き場所の4つを、専門家と一緒に決めます。
4. 定め方のメリットと、よくある失敗場面
メリットは、資金の置き場所と受取人を事前に決められることです。ただし、条件があり、削りすぎも過剰も失敗につながります。
4-1. メリットと条件
- 受取人を事前に決められる:規程に範囲と順位を書き、株主総会の決議の手順を整えることが条件です。
- 資金の置き場所を決められる:非課税枠の限度や、金額の相当性の範囲内で考えることが条件です。
- 争いの予防につながる:他の相続人の事情も踏まえて、家族で話し合っておくことが条件です。
4-2. 削りすぎ|備えが足りない場面
- 口頭の意向だけで終わる:社長に万一があったあと、専務が支払いの根拠を示せず、後継者への支払いが止まります。
- 他の相続人に何も伝えない:後継者が受け取ったあとで、不公平だとして話し合いがこじれます。
- 保障を減らして原資がない:規程はあっても、支払う資金が会社にありません。
4-3. 過剰|備えが重すぎる場面
- 保険料の重ね持ち:社長が渡したい一心で契約を重ね、毎月の保険料が会社の資金繰りを圧迫します。
- 金額の上乗せ:後継者への金額を大きくしすぎると、不相当に高額な部分は損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)他の相続人との差も広がります。
金額は、毎年の決算の数字と家族の状況を見ながら、税理士と見直します。
要するに、口頭で終わらせることも、金額を重ねすぎることも、会社と家族の負担になります。
5. 定めておくことで描ける未来と、今週できる確認
受給権者と資金の置き場所を決めておくと、相続の話し合いで現金の行き場が決まっている状態を目指せます。
後継者は資金の見通しを持ちやすくなり、他の相続人も会社の考えを文書で確かめやすくなります。ただし、規程の効力や固有の財産かどうかは、個別の事情で判断が分かれます。
今週は、次の5つを確かめます。
- 役員退職慰労金規程と弔慰金支給規程が、いまあるか確かめた。
- 後継者に渡したい意向を、社長が書き出した。
- 規程の受給権者の範囲と順位を、弁護士・税理士に確かめる項目にした。
- 株主総会の決議の手順を、顧問税理士に確かめた。
- 他の相続人にどう伝えるかを、社長が考えた。
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6. 死亡退職金を特定の人に渡す定め方のよくある質問
Q1. 死亡退職金を後継者だけに渡すことはできますか。
規程で受給権者を定める方法があります。ただし、固有の財産か遺産分割の対象かは、規程の文言や経緯で判断が分かれます。弁護士・税理士に確認してください。
Q2. 規程で受給権者を定めれば、遺産分割の対象になりませんか。
最高裁は、規程で受給権者の範囲と順位が定められている死亡退職金を、受給権者固有の権利とした例があります。(出所:最高裁判所 昭和55年11月27日判決)すべての場合に当てはまるわけではないため、個別に確認します。死亡退職金には、遺族の生活を守る性質(受け取った人の固有の財産とされる方向)と、賃金の後払いの性質(遺産分割の対象とされる方向)の2つがあるとされ、支給の根拠や経緯、支給基準などの事情を総合して判断されます。固有の財産とされる場合でも、他の相続人から特別受益として相続財産に加えるべきだと主張される可能性があります。
Q3. 退職金の決議は、どのように行いますか。
取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)手順は、顧問税理士と確かめてください。
Q4. 非課税枠はいくらまでですか。
死亡退職金の非課税限度額は、500万円に法定相続人の数を掛けて求めます。(出所:相続税法第12条第1項第6号)相続人以外が受け取る分は対象外です。
Q5. 弔慰金は、どこまでが対象ですか。
業務上の死亡であれば死亡時の役員報酬月額(従業員は普通給与)の36か月分、業務外の死亡であれば6か月分までが弔慰金として扱われます。(出所:相続税法基本通達3-20)これを超える部分は退職手当金等として扱われ、500万円×法定相続人の数の非課税枠の対象に加わります。個別の扱いは、税理士に確認してください。
Q6. 他の相続人への配慮は、どう考えますか。
後継者だけが受け取ると、不公平と感じる人が出ることがあります。遺留分侵害額請求は金銭で請求できます。(出所:民法第1046条)事前に家族で話し合い、必要な資金の備えを考えます。
7. まとめ
- 特定の人に渡すには、規程で受給権者を定め、株主総会の決議の手順を整えるのが一般的です。
- 非課税枠は500万円×法定相続人の数が限度で、弔慰金には範囲があります。(出所:相続税法第12条第1項第6号、相続税法基本通達3-20)
- 固有の財産か遺産分割の対象かは、規程の文言や経緯で判断が分かれます。弁護士・税理士に確認します。
- 法人保険は原資を会社に置く方法のひとつです。保険料の重ね持ちや金額の上乗せには注意します。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。後継者への思いと会社の状況をもとに、定め方を一緒に整理します。
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筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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