【お役立ち】一人社長に法人保険は必要か 借入と取引で見る3つの視点
従業員は雇わず、社長ひとりで回している会社があります。取引先との窓口も、見積もりも、請求書の発行も、すべて社長の手元にあります。
そうした社長の頭にふと浮かぶのが、「ひとり会社に法人保険は要るのだろうか」という疑問です。周りからは「入っておくといい」と言われ、別の人からは「いらない」と言われ、判断の軸が見つからないままになりがちです。
この記事では、一人社長に法人保険が必要かどうかを、借入・取引先・家族の3つの視点から整理します。不要なケースも正直に書きます。解説するのは、1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
結論
- 社会保険は法人なら加入の対象ですが、法人保険は任意です。入るかどうかは、会社に残る負担で決めます。
- 借入、取引先への支払い、家族の生活費が重ならない会社では、法人保険を持たない判断も十分にあり得ます。
- 金額の目安は一律に決まりません。数字を出す前に、守りたいものを書き出すところから始めます。
この記事で分かること
- ひとり会社の社長が迷いやすい3つの場面
- 社会保険と法人保険を混同しやすい理由
- 借入・取引先・家族の3つの視点での整理の手順
- 備えが足りない場合と、重すぎる場合の失敗場面
- 今週できる確認チェックリスト
1. 一人社長に法人保険が必要か迷う3つの場面
迷いが生まれるのは、保険を勧められたとき、借入をしたとき、家族に聞かれたときの3つの場面です。順に見ます。
1-1. 税理士や知人に勧められたとき
決算が近づくと、「今期は利益が出ているので保険を」と声をかけられることがあります。ただ、利益の使い道としての話と、社長の万一に備える話は、本来は別の話です。
理由を聞かずに契約すると、数年後に保険料の負担だけが重く残ることがあります。
1-2. 借入をしたとき
運転資金や設備のために借入をすると、その返済は社長の肩にかかります。社長が経営を続けられなくなったとき、返済の道筋が見えなくなる場合があります。
たとえば、社長が個人として連帯保証をしている借入があれば、家族にも影響が及ぶ可能性があります。(出所:経営者保証に関するガイドライン。中小企業庁・金融庁が2013年12月に策定)個別の金融機関との取り決めは、金融機関と専門家に確認します。
1-3. 家族から「会社はどうなるの」と聞かれたとき
配偶者や子どもから、社長に何かあった場合に会社と家計がどうなるのかを聞かれて、答えに詰まる社長は少なくありません。
従業員がいない会社は、社長が動けなくなると売上が止まりやすい面があります。一方で、守る従業員がいない分、会社を続けない選択もしやすい面があります。
要するに、勧められたとき・借入をしたとき・家族に聞かれたときが、迷いの出どころです。
2. 社会保険と法人保険を混同しやすい理由
混同の原因は、法人にすると加入が決まるものと、自分で選ぶものが同じ「保険」という名前で並ぶことです。整理します。
2-1. 社会保険は法人の仕組みとして入るもの
健康保険と厚生年金保険は、法人であれば従業員の人数にかかわらず加入の対象となる事業所になるとされています。社長ひとりの会社でも、役員報酬を受ける場合は、社長本人が被保険者になる扱いが一般的です。(出所:日本年金機構・全国健康保険協会の案内。報酬の有無などで扱いが変わるかどうかは、管轄の年金事務所に確認してください)
これは、会社として任意に選ぶ保険とは性質が違います。
2-2. 法人保険は、入る入らないを会社が決めるもの
法人が契約者になる生命保険などは、加入が法律で求められているものではありません。会社が自分の判断で選び、不要であれば持たなくてもかまいません。
そのため、「社会保険に入ったから十分」「周りが入っているから必要」のどちらも、判断の根拠としては足りません。
2-3. 公的な備えとの差を見ないまま比べてしまう
公的な制度には、社長の立場によって使えるものと使えないものがあります。たとえば、国民健康保険の側には傷病手当金の制度が設けられていません。(出所:全国健康保険協会)法人で健康保険に入っている社長は、対象になり得る場面もあります。詳しくは社長が傷病手当金を受けられる条件で整理しています。
要するに、社会保険は法人の仕組み、法人保険は会社の選択です。別々に考えます。
3. 一人社長に法人保険が必要かを見極める3つの視点と進め方
見極めの軸は、借入・取引先・家族の3つです。それぞれが、会社に何を残すのかを表にまとめます。
| 視点 | 社長に万一があったとき残るもの | 確認すること |
| 1. 借入 | 返済の義務、連帯保証 | 残高、返済期間、保証の有無 |
| 2. 取引先 | 未払いの仕入や外注費、納品中の仕事 | 支払いの時期、引き継げる相手がいるか |
| 3. 家族 | 生活費、社長への貸付金や未払いの報酬 | 会社に頼らず暮らせる資産があるか |
3-1. 手順1|借入と保証を一覧にする
金融機関ごとに、残高、返済期間、保証の有無を書き出します。保証がなく、残高も小さければ、備えの優先度は下がります。
社長が会社に貸している資金がある場合は、それも一緒に書きます。社長への貸付金は、社長個人の貸付債権として相続財産になります。(出所:財産評価基本通達204)
3-2. 手順2|取引先への支払いと、仕事の引き継ぎを考える
ひとり会社では、社長が動けなくなると、納期や支払いの管理が一度に止まります。取引先の数、支払いの時期、仕事を引き継げる同業者や知人の有無を確かめます。
引き継ぐ相手がいて、売上を畳む形でも取引先に迷惑がかからないなら、会社に置いておく資金は小さくて済む場合があります。
3-3. 手順3|家族の生活が会社に頼っているかを見る
家族の生活費が、会社の売上と役員報酬に大きく頼っているかを見ます。個人の保険や貯蓄で足りているなら、法人で重ねて持つ理由は薄くなります。個人の保険との違いは法人保険は必要か、個人保険との違いでまとめています。
3-4. 手順4|持つなら、金額と置き場所を専門家と確かめる
法人が受け取った保険金は、会社の益金になります。(出所:法人税法第22条第2項)保険料の損金の扱いは、2019年(令和元年)の通達改正後、契約の種類によって変わります。税理士に確認します。目安の金額を一律にお伝えすることはできません。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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要するに、借入・取引先・家族の3つを書き出してから、持つか持たないかを決めます。
4. 一人社長の法人保険で起きやすい失敗場面
失敗は、備えが足りない側と、備えが重すぎる側の両方で起きます。対にして見ます。
4-1. 削りすぎ|備えが足りない場面
- 借入があるのに何も備えていない:連帯保証をした社長が倒れ、返済の窓口が家族に回ってきます。
- 仕事の引き継ぎ先を決めていない:納品中の案件が止まり、取引先への支払いも滞ります。
- 会社の状況を家族が知らない:口座や契約の場所が分からず、手続きの着手が遅れます。
4-2. 過剰|備えが重すぎる場面
- 勧められるまま金額を決める:売上が落ちた年にも、保険料の支払いが資金繰りを圧迫します。
- 借入がないのに大きな保障を持つ:会社に残る負担が小さいのに、保険料だけが重く続きます。
- 個人の保険と内容が重なる:同じ万一に対して、個人と法人で二重に備えてしまいます。
見直しの考え方は法人保険の解約・払済・減額の違いが参考になります。
要するに、何も備えないことも、理由なく積み上げることも、ひとり会社の負担になります。
5. 一人社長が今週できる確認と、描ける見通し
会社に残る負担を書き出しておくと、法人保険を持つ場合も持たない場合も、理由を説明できる状態を目指せます。
必要な金額を絞り込みやすくなり、持たない選択をした場合も、家族に根拠を伝えやすくなります。ただし、借入の条件や契約の内容によって結論は変わります。
今週は、次の5つを確かめます。
- 借入の残高、返済期間、保証の有無を、一覧にした。
- 社長から会社への貸付金や、未払いの報酬がないかを確かめた。
- 取引先への支払いの時期と、仕事を引き継げる相手を書いた。
- 個人で持っている保険と貯蓄の内容を、家族と共有した。
- いま契約中の法人保険があれば、目的を一言で言えるか確かめた。
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6. 一人社長の法人保険に関するよくある質問
Q1. 従業員がいない会社でも、社会保険に入る必要はありますか。
法人であれば、従業員の人数にかかわらず、健康保険と厚生年金保険の適用事業所になるとされています。(出所:日本年金機構・全国健康保険協会の案内)報酬の有無などの個別の扱いは、管轄の年金事務所に確認してください。
Q2. 法人保険に入っていないと、会社は困りますか。
法人保険は任意で、持っていないこと自体が問題になるわけではありません。借入や取引先への支払いが会社に残る場合に、その負担をどう賄うかを考えることが大切です。
Q3. 借入がなければ、法人保険は不要ですか。
借入がない会社では、備える優先度が下がる場合があります。ただし、取引先への支払い、納品中の仕事、家族の生活費など、ほかの負担が残ることがあります。3つの視点で確かめます。
Q4. 個人の保険だけで足りますか。
家族の生活費が目的であれば、個人の保険で足りる場合があります。会社に残る負担まで賄う必要があるかは、借入や取引先の状況で変わります。違いは法人保険は必要か、個人保険との違いで整理しています。
Q5. 受け取った保険金は、会社の収入になりますか。
法人が受け取る保険金は、会社の益金になります。(出所:法人税法第22条第2項)資産に計上している部分は取り崩して差額を損益で処理します。具体的な経理の処理と税額は、税理士に確認してください。
Q6. 保険料はどのくらいが目安ですか。
一律の目安をお伝えすることはできません。売上が落ちた年にも払い続けられるか、会社に残る負担がいくらかによって変わります。金額を決める前に、守りたいものの一覧を作ります。
7. まとめ
- 社会保険は法人の仕組み、法人保険は会社が選ぶ任意のものです。別々に考えます。
- 借入・取引先・家族の3つの視点で、会社に残る負担を書き出します。
- 残る負担が小さい会社では、法人保険を持たない判断もあり得ます。
- 持つ場合も、売上が落ちた年に払い続けられる範囲かを確かめ、税務の扱いは税理士に確認します。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。借入と取引先の状況を伺い、持つ場合と持たない場合の考え方を一緒に整理します。
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筆者は、保険を、人が一番つらい『その時』に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より先に、会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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