社長が六十代に入ったころ、顧問税理士から「ご自身の退職金の財源は、どう考えていますか」と聞かれることがあります。

そこで思い出すのが、取引先や知人から聞いた「小規模企業共済」という名前です。「役員でも入れるのか」「自分の退職金代わりになるのか」と、経理担当者に調べてもらっても、条件の細かい部分までは分からないまま止まってしまう場面は少なくありません。

小規模企業共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、小規模企業の経営者や役員のための共済制度です。会社が加入する制度ではなく、役員個人が加入する制度という点から、会社が支払う役員退職金とは別の枠組みになります。

この記事では、役員の方が退職金の準備として小規模企業共済を検討するときの4つの確認点を、公式情報で確認できた範囲に絞って整理します。加入をおすすめする記事ではなく、判断の材料を並べる記事です。解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。

結論

  • 小規模企業共済は、会社等の役員も、業種ごとの従業員数の条件を満たせば加入できる国の制度です。加入するのは会社ではなく、役員個人です。
  • 確認する点は、加入資格・掛金・共済金の種類と受け取り方・途中で解約したときの扱いの4つです。
  • 途中で解約すると、納めた掛金の合計を下回る期間があります。長く続けられる掛金かどうかと、会社の役員退職金の財源は別に考える、という両面から見ます。

この記事で分かること

  • 役員が小規模企業共済を検討するときに起きやすい3つの場面
  • 会社の役員退職金と、小規模企業共済の共済金がどう違うのか
  • 加入資格・掛金・共済金・途中解約の4つの確認点
  • 備えが足りない場合と、掛金が重すぎる場合の失敗場面
タップできる目次

1. 小規模企業共済を役員の退職金準備に考えるときに起きやすい3つの場面

話が進みやすい場面は、加入できるかの確認・会社の退職金との混同・受け取りと解約の違いの3つです。順に見ていきます。

1-1. 自分が加入できるのか分からないまま、話が進む

「役員なら誰でも入れる」と思い込んで話を進めると、あとで条件に合わないと分かることがあります。

公式情報では、加入できるかどうかは、会社の業種と常時使用する従業員の数で決まると案内されています。さらに、役員として商業登記簿に登記されていることも求められています。(出所:中小機構「小規模企業共済」「加入資格」)

たとえば、小売業を営む会社の社長が、従業員を6人雇っているとします。社長本人が加入を考えても、業種の区分によっては条件に当たらない場合があります。

最初に確かめるのは、自社の業種の区分と従業員数です。

1-2. 会社が支払う役員退職金と、同じものだと思い込む

小規模企業共済は、「経営者の退職金制度」と紹介されることが多い制度です。そのため、会社の役員退職金の財源になる、と受け取られることがあります。

実際は、加入するのは役員個人で、掛金は本人の収入から納めると公式に案内されています。(出所:中小機構「小規模企業共済」制度のしおり)共済金を受け取るのも役員本人です。

たとえば、社長が共済に入ったから、会社は退職金の財源を用意しなくてよい、と経理担当者に伝えたとします。会社の規程にもとづく役員退職金は、別に決議して会社の資金から支払うものです。共済金が入っても、その資金が会社の口座に入るわけではありません。

1-3. 受け取るときと、途中でやめるときの扱いの違いを知らない

共済金は、役員を退任した場合や、老齢給付などの事由で受け取る種類があります。一方、自分の都合で契約をやめる場合は、解約手当金という別の扱いになります。

掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約をすると、支給される額が納めた掛金の合計を下回ります。(出所:中小機構「よくあるご質問」)

たとえば、資金繰りが厳しくなった年に、掛金の負担を減らそうと解約を考えたとします。納付期間が短いと、納めた分より少ない額しか戻りません。

要するに、加入できるかの確認・会社の退職金との違い・途中解約の扱いの3つが、先に整理しておく点です。

2. 小規模企業共済と役員退職金の関係が見落とされやすい背景

見落とされる背景は、加入の主体・条件の判定方法・「退職金」という呼び名の3つです。

2-1. 加入するのは会社ではなく、役員個人

小規模企業共済は、会社として加入する制度ではありません。公式FAQでも、会社等としては加入できず、役員個人が加入すると案内されています。(出所:中小機構「よくあるご質問」)

このため、会社の決算書には共済の資産が載りません。社長個人の財産として管理する制度になります。会社の経理担当者が把握しにくいのは、このためです。

掛金は、公式の制度のしおりでは事業上の損金や必要経費にならない一方で、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になると案内されています。(出所:中小機構「小規模企業共済」制度のしおり)会社が役員の掛金を負担した場合の税務上の扱いは、検索で確認できた範囲では公式の説明が見当たりませんでした。顧問税理士に確認します。

2-2. 条件の判定が、業種と従業員の数え方で変わる

従業員の数え方にも、決まりがあります。公式FAQでは、常時使用する従業員は正社員が対象で、パート・アルバイト・派遣・契約社員、役員や家族従業員などは数えないと案内されています。(出所:中小機構「小規模企業共済」「常時使用する従業員」のよくあるご質問)

「従業員は5人くらい」という感覚の人数と、公式の数え方の人数が、ずれることがあります。条件は加入時点で判断され、あとで従業員が増えても契約は続けられるとされています。

2-3. 「退職金」という呼び名が、会社の制度と並んで語られる

会社が払う退職金は、株主総会などの決議で決める会社の支出です。共済金は、役員個人が受け取る別の財産です。両方を合わせて、勇退後の資金の見通しを立てる、という見方になります。

要するに、個人の制度であることを押さえると、会社の退職金との関係が整理しやすくなります。

3. 小規模企業共済で役員が確認する4つの点

確認する点は、加入資格・掛金・共済金の種類と受け取り方・途中解約の4つです。まず表で全体を整理します。

確認点 見るところ 確かめる先
1. 加入資格 業種の区分、常時使用する従業員の数、役員としての登記 中小機構の加入資格ページ
2. 掛金 月額の範囲、毎月続けられる額か、負担する人 中小機構の掛金ページ・顧問税理士
3. 共済金と受け取り方 共済金の種類、一括・分割、受け取る年の税金 中小機構の共済金ページ・税理士
4. 途中解約 納付月数ごとの解約手当金、掛け捨てになる期間 中小機構の制度のしおり

3-1. 確認点1|加入資格を、業種と従業員数で確かめる

加入資格の公式の区分は、次のとおりです。(出所:中小機構「小規模企業共済」「加入資格」)

  • 建設業・製造業・運輸業・不動産業・農業・サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)など:常時使用する従業員が20人まで
  • 商業(卸売業・小売業)・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く):常時使用する従業員が5人まで

役員の場合は、そのうえで、履歴事項全部証明書に役員として登記されていることが必要です。相談役や顧問のように、実質的な経営者であっても、役員登記がなければ加入できないと案内されています。このほかにも個別の事情で加入できない場合があるため、迷うときは中小機構に確認します。

3-2. 確認点2|掛金は、続けられる額かどうかで見る

掛金月額は、1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で選べます。(出所:中小機構「小規模企業共済」「掛金」)

途中で増額や減額もできますが、減額した部分は納付月数が増えず、解約手当金の計算に影響すると案内されています。(出所:中小機構「よくあるご質問」)

掛金を上限まで入れるかどうかは、会社の資金繰りではなく、社長個人の家計と、報酬の手取りで決めることになります。報酬が下がる年でも続けられる額かどうかを、基準にします。

3-3. 確認点3|共済金の種類と、受け取り方を確かめる

共済金は、請求の事由ごとに、共済金A・共済金B・準共済金・解約手当金に分かれます。どれに当たるかは、退任の事情、年齢、掛金納付月数などで決まります。(出所:中小機構「小規模企業共済」「共済金等請求・解約」)

共済金Aと共済金Bは、掛金納付月数が6か月以上であれば受け取れます。準共済金と解約手当金は、12か月以上が必要です。12か月に満たない解約では、納めた掛金は戻らないと案内されています。(出所:中小機構「よくあるご質問」)

役員を続けたままでも、65歳以上で掛金納付月数が180か月以上であれば、老齢給付として共済金Bを請求できるとされています。(出所:中小機構「小規模企業共済」「会社等役員の老齢給付」)

受け取り方は、一括・分割・一括と分割の併用から選びます。税金の扱いは、一括で受け取る場合は退職所得、分割は公的年金等の雑所得として扱われると、中小機構が案内しています。(出所:中小機構「小規模企業共済」「共済金の受取方法」)分割には、受け取る期間を10年または15年から選ぶ仕組みがあり、共済金の額や年齢などの要件があります。要件の細かい数字は、請求の前に公式資料で確認してください。

一括で受け取る場合の退職所得の計算は、国税庁のタックスアンサーNo.2732に示されています。計算の詳しい内容は、別の記事でも整理しています。会社から受け取る役員退職金と同じ年になるかどうかで税額が変わる場合があるため、受け取る年の組み立ては税理士に確認します。

3-4. 確認点4|途中で解約したときの扱いを、先に知っておく

自分の都合で契約をやめる任意解約では、解約手当金が支給されます。掛金納付月数が240か月(20年)未満の場合は、支給額が掛金の合計を下回ります。(出所:中小機構「よくあるご質問」)

制度のしおりでは、納付月数が12か月以上84か月未満の間の支給率は80%、そこから6か月ごとに段階的に上がり、240か月以上246か月未満で100%に達すると案内されています。(出所:中小機構「小規模企業共済」制度のしおり)

掛金月額を途中で減額している場合は、240か月以上でも掛金の合計を下回ることがあります。

任意解約をしたときの所得の区分は、解約時の年齢などで変わります。取り扱いは、請求の前に中小機構の案内と税理士の説明で確かめます。

4つの確認点を、この順番で確かめれば、勇退後の資金計画の中での位置づけが見えてきます。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

【まるっと解説】勇退退職金の準備|社長のセカンドライフ5つの手順

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4. 小規模企業共済を退職金準備にするときの失敗場面

失敗は、準備が足りない場合と、掛金が重すぎる場合の両方で起きます。

4-1. 備えが足りない場合

  • 共済に入ったことで安心してしまう場合:たとえば、社長が「共済があるから大丈夫」と考え、会社の役員退職金の規程や決議の準備をしないまま数年が過ぎたとします。勇退の時期に、会社の支払いの財源が決まっておらず、共済金と会社の退職金のどちらを何に充てるか整理できません。
  • 加入資格を確かめずに計画する場合:たとえば、経理担当者が条件を確認せずに「社長は入れる」と退職金の見通しに織り込んでいたとします。従業員数や登記の状況で入れないと分かり、準備の組み直しになります。

4-2. 掛金が重すぎる場合

  • 上限近くまで掛金を入れてしまう場合:たとえば、社長が毎月の掛金を大きく設定したとします。役員報酬を見直した年に手取りが減り、家計が苦しくなって、掛金の減額や解約を考えることになります。減額した部分は、納付月数が増えない扱いです。
  • 他の備えと重ねすぎる場合:たとえば、法人保険や預金積み立てに加えて共済にも多く入れたとします。会社の資金繰りと社長個人の家計の、両方で余裕がなくなります。

どの方法にも、続けられる額という限度があります。勇退後に必要な額から逆算して、各制度の役割を決めます。

要するに、安心して後回しにすることも、掛金を入れすぎることも、見通しを狭めます。

5. 今週中にできる確認チェックリスト

難しい計算は要りません。次の5つを、今週のうちに確かめます。

今週の確認チェックリスト

  • 自社の主たる事業の業種と、常時使用する従業員の数(正社員のみ)を書き出した
  • 社長(または対象の役員)が、商業登記簿に役員として登記されていることを確かめた
  • 続けられる掛金月額を、家計と報酬の手取りから考えた
  • 会社の役員退職金の規程と、決議の準備ができているかを確かめた
  • 受け取り方と税金の扱いを、顧問税理士に聞く項目として書き出した

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6. よくある質問

小規模企業共済には、会社の役員も加入できますか。

加入できます。中小機構の案内では、小規模企業を経営する会社等の役員も対象とされています。ただし、業種ごとの常時使用する従業員数の条件があり、役員として登記されていることも必要です。(出所:中小機構「小規模企業共済 加入資格」)

小規模企業共済の掛金は、いくらの範囲で選べますか。

中小機構の案内では、掛金月額は1,000円から70,000円までの範囲で、500円単位で選べます。(出所:中小機構「小規模企業共済の掛金」)続けられる額かどうかで決めます。

共済金は、一括と分割のどちらで受け取れますか。

一括、分割、一括と分割の併用から選べます。一括は退職所得、分割は公的年金等の雑所得として扱われると、中小機構が案内しています。分割には要件があるため、請求の前に公式資料で確認してください。

途中で解約すると、掛金は戻りますか。

掛金納付月数が12か月以上であれば解約手当金が支給されますが、240か月(20年)未満の任意解約では、納めた掛金の合計を下回ります。12か月未満では支給されません。(出所:中小機構「よくあるご質問」)

会社の役員退職金の代わりになりますか。

別のものです。共済は役員個人が加入して個人が受け取る制度で、会社の規程と決議にもとづく役員退職金とは仕組みが異なります。両方を合わせて、勇退後の資金を考えます。

掛金を会社が負担してもよいですか。

公式の制度のしおりでは、掛金は本人の収入から納め、事業上の損金や必要経費にはならないと案内されています。会社が負担した場合の税務上の扱いは、顧問税理士に確認してください。個別の判断は税理士の領域です。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 小規模企業共済は、会社等の役員も、業種ごとの従業員数の条件を満たせば加入できます(出所:中小機構)。加入するのは役員個人です。
  • 確認する点は、加入資格・掛金・共済金の種類と受け取り方・途中解約の4つです。
  • 掛金月額は1,000円から70,000円までで、240か月未満の任意解約は納めた掛金を下回ります(出所:中小機構)。
  • 会社の役員退職金とは別の制度です。両方を合わせて勇退後の資金を考えます。
  • 税務の個別判断は税理士の領域です。

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筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

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