【実務の目線】法人保険の保険積立金 決算書で確かめる4つの注意点
決算書を受け取った社長が、貸借対照表の資産の欄にある「保険積立金」の金額を見て、「会社にはこれだけの余力がある」と考える場面を思い浮かべてください。
金融機関との面談の前に、経理担当者が資金繰り表を作ります。積立金の金額を、いざというときに使える資金として数えたくなります。ところが、その金額がそのまま現金になるわけではありません。
法人保険の相談では、「決算書に載っている保険積立金は、会社の資金として使えるのか。金融機関にはどう見えるのか」という声を伺います。保険積立金は、現金とは性質が違う資産です。
この記事は、法人保険の保険積立金を決算書で見るときの4つの注意点を、資金繰りの視点で整理します。解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。
解約や加入をお勧めする記事ではありません。決算書の数字と、契約の実際の姿を、落ち着いて見比べるための記事です。
結論
- 保険積立金は、資産に計上した保険料から取り崩した分を引いた残高で、現金ではありません。使うには、解約や契約者貸付などの手続きが要ります。
- 決算書で見るときの注意点は4つです。現金化の手段、帳簿残高と解約返戻金の差、金融機関に聞かれたときの説明、保障への影響を確かめます。
- 余力と見込み過ぎれば資金繰りの圧迫が、決算書のために減らし過ぎれば保障の空白が生まれます。経理の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 保険積立金とは何か、現金とどう違うか
- 保険積立金が決算書で誤解されやすい背景
- 決算書で確かめる4つの注意点
- 今週できる決算書と証券の突き合わせ3ステップ
- 積立金の見方で起きる失敗の場面
1. 法人保険の保険積立金と決算書の関係
保険積立金は、会社が払った保険料のうち、その年の費用にしなかった分を資産として載せ、取り崩した分を引いた残高です。確かめる点は、成り立ち、現金との違い、解約返戻金との違いの3つです。
1-1. 成り立ち:資産に計上した保険料
法人保険の保険料は、契約の種類や内容によって、費用にする分と資産に計上する分に分かれます。資産に計上した分は、貸借対照表の資産の欄に載ります。科目の名前は、会社によって異なります。
2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)ただし、解約返戻金相当額のない短期払いの定期保険・第三分野保険は、2019年10月8日以後の契約が対象です。(出所:国税庁)
資産計上の全体像は、法人保険の経理処理|資産計上と取崩しの読み方で整理しています。
養老保険などは、定期保険・第三分野保険とは別の通達で扱われます。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-4)契約の種類は、証券で確かめます。
1-2. 現金との違い:手続きをしないと使えない
現金や預金は、必要なときに支払いに使えます。保険積立金は、保険契約の中にある資産です。使うには、解約するか、契約者貸付を受けるかなどの手続きが要ります。
1-3. 解約返戻金との違い:金額が一致するとは限らない
帳簿に載っている金額は、資産に計上した保険料から取り崩した分を引いたものです。実際に解約したときに戻る解約返戻金とは、計算の仕組みが違います。
そのため、帳簿の残高と解約返戻金が同じ金額になるとは限りません。差額は、解約した期の損益に出ます。個別の処理は、税理士の領域です。
要するに、保険積立金は、資産に計上した保険料で、現金ではなく、解約返戻金とも金額が一致するとは限りません。
2. 保険積立金が決算書で誤解されやすい背景
誤解されやすい背景には、数字の見え方と、相談先の分かれ方があります。代表的なものを3つ挙げます。
2-1. 資産の欄にあるため、余力に見える
貸借対照表の資産の欄には、現金預金、売掛金、保険積立金などが並びます。同じ欄に載っているため、すべて使える資金のように見えます。
実際には、現金化までの手続きと、保障への影響が伴う資産です。
2-2. 契約の中身を知る人が少ない
決算書に載るのは金額だけで、契約の目的や条件は載りません。経理担当者は金額を見ても、どの契約の積立金かを把握していないことがあります。
社長が交代すると、契約の目的を説明できる人がいなくなる場合があります。
2-3. 税理士と保険担当者で相談先が分かれている
決算書の数字は顧問税理士、契約の中身は保険の担当者と、相談先が分かれています。両者が会社の全体像を共有していないと、帳簿の数字と契約の実際の姿のずれに誰も気づきません。
相談先の役割分担は、法人保険の相談先 税理士と担当者の役割分担 3つのポイントでも整理しています。
要するに、誤解されやすいのは、資産の欄に並ぶ見え方、契約の中身を知る人の少なさ、相談先の分かれ方が重なるためです。
3. 保険積立金を決算書で見るときの4つの注意点
決算書で見るときの注意点は、大きく4つあります。現金化の手段、帳簿残高と解約返戻金の差、金融機関に聞かれたときの説明、保障への影響の4つです。
3-1. 注意点その1:現金化には手続きと費用が伴う
積立金を資金にするには、解約するか、契約者貸付を受けるかのどちらかが主な方法です。解約は保障がなくなり、契約者貸付は利息がかかり、残高が差し引かれます。
契約者貸付には利息がかかり、残高は保険金や解約返戻金から差し引かれます。残高と利息が解約返戻金を超えると契約が失効する場合があります。詳しくは、契約者貸付と解約返戻金 資金繰りに使う4つの落とし穴で整理しています。
3-2. 注意点その2:帳簿残高と解約返戻金の差を確かめる
解約返戻金が帳簿の残高を下回ることもあれば、上回ることもあります。下回れば、その差が損失として出る場合があります。
返戻金が帳簿の残高を上回れば、差額は益金になり、手取りは返戻金より少なくなる場合があります。解約返戻金と税金の考え方は、法人保険の解約返戻金と税金|出口の選び方で整理しています。
契約ごとに、いま解約したらいくら戻るかを、保険の担当者に出してもらい、帳簿の残高と並べます。
3-3. 注意点その3:金融機関に聞かれたときの説明を用意する
金融機関は、決算書から、返済の余力や資産の内容を見ます。面談では、保険積立金の中身を聞かれることがあります。
契約の目的、保障の内容、解約した場合の見込み額を、1枚にまとめておくと、説明がしやすくなります。
3-4. 注意点その4:決算書のための判断が、保障に影響しないか
決算書を整えるために、積立金のある契約を解約すると、保障もなくなります。決算書の見え方と、社長の万一への備えを、天秤にかけて決めます。
解約する前に、減額や払済で保障を小さく残せないかを、保険の担当者に確かめます。
要するに、注意点は、現金化の手段、帳簿残高と解約返戻金の差、金融機関への説明、保障への影響の4つです。
| 見る項目 | 決算書で分かること | 契約で確かめること |
| 保険積立金の残高 | 資産に計上した保険料の残高 | 契約ごとの内訳、目的 |
| 解約したときの金額 | 載っていない | 解約返戻金の見込み額 |
| 借入の状況 | 契約者貸付が借入に載る場合がある | 貸付の残高、利息、失効の条件 |
| 保障の内容 | 載っていない | 保険金額、被保険者、受取人 |
ここで触れた経理は、いずれも一般的な考え方です。個別の損金・益金の判断、申告、経理処理の確定は、税理士の領域です。
ここまでで要点に絞って解説しました。制度の全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】法人保険と会社の資金繰り|万一に備える5つの視点
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4. FP1級が見る決算書と法人保険の突き合わせ
専門家と点検する価値は、決算書の数字と契約の実際の姿を、同じ机で並べて見られることです。経営者が一人で見ると、金額だけで判断しやすくなります。
4-1. 決算書と証券で確かめる4つの項目
- 貸借対照表の保険積立金の残高と、契約ごとの内訳
- 契約ごとの、いまの解約返戻金の見込み額
- 契約者貸付の残高と、借入欄への載り方
- 契約した時期と種類(定期保険・第三分野保険か、養老保険などか)
この4つを、契約ごとに書き出します。契約が複数あるときは、積立金と解約返戻金の合計も出します。
書き出した表は、社長、経理担当者、顧問税理士の三者で共有します。決算のたびに更新しておけば、金融機関との面談の前に、慌てて資料を集めずに済みます。
社長が交代した会社では、前の社長が加入した目的を、新しい社長と経理担当者が引き継げているかも確かめます。目的が分かれば、残す契約と見直す契約の線引きがしやすくなります。
4-2. 経営者・税理士・保険担当者の役割
| 立場 | 主に見ること |
| 経営者 | 契約の目的と、守りたい対象。最終の判断 |
| 顧問税理士 | 積立金の経理、解約したときの損益、決算書の載せ方 |
| 保険担当者・FP | 解約返戻金の見込み額、貸付の条件、保障の過不足 |
4-3. 筆者が大切にしていること
筆者は、社長が守るものは、ご家族だけではないと考えています。従業員と、そのご家族の暮らしも、社長が守っているものです。
決算書の見え方を整えるために保障を手放す前に、その保障が誰を守っているのかを、一緒に確かめます。決算書を優先したほうがよい場合も、保障を残したほうがよい場合も、正直にお伝えします。
要するに、点検は、決算書と証券の突き合わせ、役割分担、守りたい人の確認の3つで進めます。
5. 今週できる決算書と証券の突き合わせ3ステップと、積立金で起きる失敗
今週できる一歩は3つです。どれも、契約を変えずにできます。あわせて、積立金の見方で起きやすい失敗を3つの場面で整理します。
5-1. 今週中にできる3ステップ
- 直近の決算書から、保険積立金の残高を書き出し、顧問税理士に契約ごとの内訳を聞く
- 保険の担当者に、契約ごとの解約返戻金の見込み額と、契約者貸付の上限を出してもらう
- 帳簿の残高と解約返戻金を並べ、差が大きい契約と、目的が分からない契約に印を付ける
この3つで、決算書の数字と契約の姿のずれが見えてきます。どう動くかは、顧問税理士とも相談して決めます。
5-2. 積立金を余力と数え、資金繰りが足りなくなる場面
たとえば、経理担当者が資金繰り表の余力の欄に、保険積立金の金額をそのまま入れたとします。
社長が、資金が足りなくなる月でも積立金があるから大丈夫だと判断したとします。支払日の前に保険の担当者へ解約返戻金を確かめて初めて、帳簿の残高と金額が違い、受け取りまで手続きが要ると分かります。保険積立金の帳簿残高をそのまま使える資金と見込むと、契約によっては解約返戻金が帳簿の残高に届かず、資金が必要な月の支払いに間に合わなくなります。経理担当者は、余力の欄には積立金を入れず、解約返戻金の見込み額を別枠で書き添えます。使うかどうかは社長が決め、使える時期は保険の担当者に確かめます。
5-3. 決算書を整えるために解約し、保障の空白が生まれる場面
たとえば、社長が金融機関との面談の前に、「積立金を減らして現金を増やしたい」と考え、事業保障の契約を解約したとします。
決算書は整って見えますが、借入金の返済は続いています。社長に万一があったとき、銀行への返済や従業員の給与を支える保険金は会社に入りません。決算書の見え方のために契約を解約すると、社長の万一のあとに借入金の返済と従業員の給与を支える資金がなくなります。解約する前に、減額や払済で保障を残せないかを、保険の担当者に確かめます。
5-4. 金融機関の面談で、積立金の中身を説明できない場面
たとえば、金融機関の面談で、担当者から「保険積立金の内訳を教えてください」と聞かれたとします。
社長は契約の目的を答えられず、経理担当者も金額しか把握していないとします。契約の目的と解約返戻金の見込み額を整理しないまま面談に臨むと、積立金の中身を説明できず、その場で出せる資料が決算書の金額だけになります。面談の前に、社長は税理士と保険の担当者から、契約ごとの1枚のまとめをもらっておきます。
要するに、余力と見込み過ぎれば資金繰りの圧迫が、決算書のために減らし過ぎれば保障の空白が生まれます。説明できる準備を先に整えます。
6. 法人保険の保険積立金のよくある質問
Q1. 保険積立金は、会社が自由に使えるお金ですか。
自由に使えるお金ではありません。資産に計上した保険料から取り崩した分を引いた残高で、使うには解約や契約者貸付などの手続きが要ります。解約すれば保障もなくなります。
Q2. 保険積立金と解約返戻金は同じ金額ですか。
同じとは限りません。帳簿の残高は資産に計上した保険料から取り崩した分を引いたもので、解約返戻金は契約の仕組みで決まります。差額は、解約した期の損益に出ます。個別の処理は、税理士の領域です。
Q3. 保険積立金は、金融機関の評価でどう見られますか。
金融機関によって見方が異なるため、一概には言えません。面談では、契約の目的、保障の内容、解約した場合の見込み額を説明できるようにしておくと、話が進みやすくなります。
Q4. 保険料は、すべて保険積立金になりますか。
すべてではありません。契約の種類や内容によって、費用にする分と資産に計上する分に分かれます。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-4、9-3-5、9-3-5の2)個別の区分は、税理士の領域です。
Q5. 契約者貸付を受けると、決算書にどう載りますか。
一般には、会社の借入として整理される場合があります。勘定科目や載せ方は会社と契約の内容で異なるため、顧問税理士に事前に伝えます。貸付の残高と利息が解約返戻金を超えると、契約が失効する場合があります。
Q6. 2019年の通達改正で、保険積立金はどう変わりましたか。
2019年(令和元年)7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上の定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるものは、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。(出所:国税庁、法人税基本通達9-3-5の2)解約返戻金相当額のない短期払いの定期保険・第三分野保険は、2019年10月8日以後の契約が対象です。それ以前の契約は、従来の取扱いが続く場合があります。個別の判断は、税理士の領域です。
7. まとめ|保険積立金は、決算書と契約の両方で見る
- 保険積立金は、資産に計上した保険料から取り崩した分を引いた残高で、現金ではありません。帳簿の残高と解約返戻金は、一致するとは限りません。
- 決算書で見るときの注意点は、現金化の手段、帳簿残高と解約返戻金の差、金融機関への説明、保障への影響の4つです。
- 余力と見込み過ぎれば資金繰りの圧迫が、決算書のために減らし過ぎれば保障の空白が生まれます。
- 経理の個別判断は税理士の領域です。経営者・税理士・保険担当者の三者で全体を見ます。
筆者は、保険は会社と大切な人を守る道具のひとつだと考えています。必要なものを、必要な分だけ。決算書の話より先に、守りたい人のお話を伺います。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。決算書と証券をもとに、いまの会社に合う見方を一緒に整理します。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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