【FP1級監修】自社株買取で相続税の納税資金を確保する4つの判断軸
相続が起きたあと、後継者が経理担当者と並んで、相続した財産の一覧を見ている場面を思い浮かべてください。自社株の評価額は大きいのに、預金は思ったより少ない。「株は手元にあるのに、納税のお金がない」と、二人で顔を見合わせます。
非上場の自社株は、市場がなく、売って現金にしにくいものです。かといって、後継者個人の貯えだけで納税をまかなえるとも限りません。こうした悩みに対して、相続した自社株の一部を会社に買い取ってもらい、その代金を納税に充てるという考え方があります。
この記事では、相続から買取、納税までのお金の流れと、手放す株の量の決め方を、4つの判断軸で整理します。解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 会社が相続した自社株の一部を買い取り、後継者が代金を納税に充てる方法があります。ただし、買い取れる額には財源の上限があります。
- 手放す株の量は、納税に要る額・経営権の維持・会社の財源・売る側の税の4つを並べて決めます。
- 多く買い取るほど資金は集まりますが、会社の体力は削られます。個別の税務判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 納税資金の不足で、現場に起きやすい3つの場面
- 相続→買取→納税の流れが見落とされやすい理由
- 手放す株の量を決める4つの判断軸と、法人保険の位置づけ
- 備えが足りない場合と、重すぎる場合の対比
1. 自社株の納税資金が足りないときに起きやすい3つの場面
納税資金の不足は、評価額と現金の差・資金の出どころ・株の持ち分の3つの場面で表に出ます。順に見ていきます。
1-1. 評価額は大きいのに、現金が少ない
相続財産の多くが自社株という会社では、相続税の評価額に比べて、すぐ使える現金が少ないことがあります。
たとえば、後継者が税理士から納税額の見込みを聞き、手持ちの預金と比べたところ、大きな開きがあったとします。納税の期限が近づくほど、後継者の焦りは強くなります。
1-2. 資金をどこから出すか、決まっていない
納税の資金は、後継者個人の預金、金融機関からの借入れ、会社からの支払いなど、いくつかの出どころが考えられます。
出どころが決まっていないまま期限を迎えると、後継者は急いで借入れを相談することになります。借入れが増えれば、その後の返済も後継者の肩にかかります。
1-3. 株を手放すと、経営権が心配になる
納税のために株を売ろうとすると、今度は持ち分が減ることが気がかりになります。
手放す量が多すぎれば、後継者の議決権が下がり、経営の舵取りに影響が出ます。かといって、手放さなければ現金が足りません。この板挟みが、判断を難しくします。
要するに、評価額と現金の差・資金の出どころ・株の持ち分という3つが、同時に後継者へかかります。
2. 相続→買取→納税の流れが見落とされやすい理由
見落とされる理由は、相続の前後で話が切れてしまうことと、買取に財源の制約があることが知られていないことの2つです。整理します。
2-1. 納税の話が、相続が起きてから始まる
相続の前は「株をどう渡すか」の話が中心になりがちです。納税のお金をどう用意するかは、相続が起きてから慌てて考える会社が少なくありません。
ただ、会社が買い取る方法を使うには、財源の確認や株主総会などの手続きが要ります。起きてから間に合わせようとすると、選べる方法が狭まります。
2-2. 「会社が買えばよい」と考えてしまう
会社が買い取れば、後継者は現金を得られます。そう聞くと、いくらでも買ってもらえるように思えます。
ところが、会社が自己株式を取得するときに株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、効力発生日の分配可能額を超えてはなりません。(出所:会社法第461条第1項)分配可能額は、資本金や準備金を含まず、その他資本剰余金やその他利益剰余金などを基礎に算定します。(出所:会社法第446条・第461条第2項、会社計算規則)
たとえば、現預金は多く見えても、分配可能額が小さい会社があります。経理担当者が確かめて初めて、買い取れる額が思ったより少ないと分かる場面です。
要するに、納税の話が遅れることと、買取の財源に上限があることが、この流れを見えにくくします。
3. 手放す株の量を決める4つの判断軸|相続から納税までの流れ
流れは、相続で後継者が株を受け継ぎ、会社が一部を買い取り、後継者が代金で納税する順です。手放す株の持ち分は、納税の資金の出どころとあわせて、次の4つの判断軸を並べて決めます。
| 判断軸 | 確かめること | 確認する相手 |
| 1. 納税に要る額 | 相続税の見込み額と、自己資金で足りない部分 | 税理士 |
| 2. 経営権の維持 | 手放したあとも、後継者の議決権が保てる範囲 | 税理士・弁護士 |
| 3. 会社の財源 | 分配可能額と、買取後の資金繰り | 税理士・経理担当者 |
| 4. 売る側の税 | みなし配当など、後継者に生じる課税 | 税理士 |
- 必要額を見立てる:納税に要る額から、自己資金で足りない分を出します。
- 手放す上限を決める:後継者が議決権を保てる範囲を、先に線引きします。
- 会社の財源を確かめる:分配可能額と買取後の資金繰りを見ます。
- 手続きと税の確認を進める:決議の手順と、売る側の課税を専門家と詰めます。
3-1. 判断軸1|納税に要る額から、足りない部分を出す
最初に、相続税の見込み額を税理士に試算してもらいます。そこから、後継者の自己資金で払える分を引き、足りない部分を出します。
この「足りない部分」が、株を現金に換える必要額の目安です。株を手放す量を、感覚で決めないことが大切です。
3-2. 判断軸2|経営権が保てる範囲を、先に線引きする
現金が必要でも、後継者の持ち分が下がりすぎれば、経営の判断に影響します。
手放す株の量は、必要額から逆算するだけでなく、「ここまでは手放さない」という下限から決める見方もあります。議決権の扱いは会社の状況で変わるため、弁護士・税理士に確認します。
3-3. 判断軸3|会社の財源と、買取後の資金繰りを見る
会社が株を取得するには、株主総会の決議(特定の株主から取得する場合は特別決議。出所:会社法第156条・第160条・第309条第2項)などの手続きが要ります。買取の総額は、分配可能額の範囲内です。(出所:会社法第461条第1項)
範囲内であっても、買取で現預金が減れば、運転資金や設備投資の余裕が小さくなります。経理担当者と、買取後の資金繰りを月ごとに並べて確かめます。
3-4. 判断軸4|売る側にかかる税を、あらかじめ確かめる
個人株主が会社に株を売ると、対価のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は、みなし配当として課税される場合があります。(出所:所得税法第25条)
要件を満たす特例がある場合もあり、条件を満たすかどうかで手取りが変わります。要件の判定と税額の確定は、税理士の領域です。
3-5. 法人保険は、会社の財源を整える方法のひとつ
会社の財源を整える方法には、利益を積み上げる方法のほか、法人保険を使う方法があります。
法人が受け取る死亡保険金や解約返戻金は、会社の益金になります。(出所:法人税法第22条第2項)納税後の利益の蓄積は、その他利益剰余金を増やし、分配可能額を広げる方向に働きます。ただし、広がるとは限りません。保険料の負担や、決算の内容によって変わります。経営者ご本人が健康状態などで保険に加入できない場合でも、後継者などを被保険者にする考え方があります(被保険者の同意が必要です。出所:保険法第38条)。加入を勧めるものではありません。
保険に限らず、必要額と会社の財源を並べて検討することが前提です。そのうえで、後継者が手放す株の範囲を考えやすくなり、将来の買取の選択肢を残しやすくなる場合があります。ただし、分配可能額の範囲内であることや、決議などの手続き、売る側の課税の確認が前提です。とはいえ、保険の話から入ることはしません。先に会社の資金繰りの全体像を見ます。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
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要するに、必要額・経営権・会社の財源・売る側の税の4つを並べて、手放す量を決めます。
4. 納税資金の確保で起きやすい失敗|備えが足りない場合と重すぎる場合
失敗は、備えが足りないことと、備えが重すぎることの両方で起きます。対にして見ていきます。
4-1. 備えが足りない場面
- 納税の資金計画がないまま、相続を迎える:たとえば、社長に万一があり、後継者が納税額を初めて知ったとします。短い期間で借入れを探すことになり、会社の資金繰りにも影響します。
- 買取の財源を確かめていない:たとえば、後継者が「会社に買ってもらう」と考えていたものの、経理担当者が確かめると分配可能額が小さかったとします。想定した現金が得られず、計画が組み直しになります。
- 売る側の税を見込んでいない:たとえば、買取代金をそのまま納税額に充てる計画だったのに、みなし配当の課税で手取りが減ったとします。納税の資金に、不足が生じます。
4-2. 備えが重すぎる場面
- 必要以上に多く手放そうとする:たとえば、納税の不安をなくしたい一心で、社長が必要額を超えて買取を進めたとします。後継者の議決権が下がり、経営権への不安が残ります。
- 財源づくりのために、保険料を重ねる:たとえば、経理担当者が毎月の保険料の支払いを見ると、運転資金の余裕が小さくなっていたとします。平時の賞与や設備更新の原資が削られ、本末転倒になります。
手放す量も、財源づくりの負担も、「足りない」と「多すぎる」の間で決めます。決算ごとに、見直しの機会を設けます。
要するに、放置も上乗せも避け、必要額と会社の体力に合わせて決めます。
5. 今週できる自社株の納税資金の確認チェックリスト
今週のうちに、次の5項目を確かめます。難しい計算は要りません。
- 自社株が相続財産のどのくらいを占めるか、税理士に見込みを尋ねる準備をしましたか。
- 後継者が自己資金で払える額を、おおまかに把握しましたか。
- 後継者が「ここまでは手放さない」という持ち分の下限を、話し合いましたか。
- 直近の決算書で、分配可能額を税理士に確認してもらう段取りをしましたか。
- みなし配当を含む、売る側の税の確認を依頼する準備をしましたか。
気になる項目は、顧問の税理士に相談する材料になります。
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6. 自社株買取と納税資金についてよくある質問
Q1. 相続した自社株を会社に買ってもらえば、納税資金になりますか。
会社が買い取れば、後継者は代金を得られ、納税に充てられます。ただし、買取の総額は分配可能額の範囲内です。(出所:会社法第461条第1項)可能かどうかは決算の内容で変わるため、税理士に確認してください。
Q2. 会社が自社株を買うには、どんな手続きが要りますか。
株主総会の決議(特定の株主から取得する場合は特別決議。出所:会社法第156条・第160条・第309条第2項)などの手続きが要ります。具体的な進め方は会社の状況で変わるため、弁護士・司法書士・税理士に確認してください。
Q3. 手放す株の量は、どう決めればよいですか。
納税に要る額、後継者の議決権が保てる範囲、会社の財源、売る側の税の4つを並べて決めます。必要額だけで決めると、経営権への影響を見落とします。
Q4. 会社に株を売ると、後継者に税金がかかりますか。
個人株主が会社に株を売ると、対価のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は、みなし配当として課税される場合があります。(出所:所得税法第25条)要件を満たす特例がある場合もあるため、税理士に確認してください。
Q5. 分配可能額は、現預金の額と同じですか。
同じとは限りません。資本金や準備金は含まず、その他資本剰余金・その他利益剰余金などを基礎に算定します。(出所:会社法第446条・第461条第2項、会社計算規則)現預金が多くても、分配可能額が小さい場合があります。
Q6. 法人保険で、買取の財源を用意できますか。
受け取った保険金は会社の益金で(出所:法人税法第22条第2項)、納税後の利益が分配可能額を広げる方向に働くことがあります。ただし、保険料の負担や決算の内容で変わります。必要額と資金繰りを並べてから検討します。
7. まとめ
- 相続した自社株の一部を会社が買い取り、後継者が代金で納税する方法があります。買取の総額は分配可能額が上限です(出所:会社法第461条第1項)。
- 手放す量は、納税に要る額・経営権の維持・会社の財源・売る側の税の4つの判断軸で決めます。
- 売る側にはみなし配当の課税が生じる場合があり(出所:所得税法第25条)、判定は税理士に確認します。
- 備えが足りなくても、重すぎても、資金繰りを圧迫します。会社の体力に合わせて見直します。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。自社株の持ち分と資金繰りをもとに、納税の流れを一緒に整理します。
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筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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