創業社長が急に亡くなり、葬儀が一段落した夜。専務が経理担当者に尋ねます。「ご遺族への退職金は、どう工面する」。通帳の残高を見た経理担当者は、答えに詰まります。

退職金の額は、社長の功績を踏まえると大きくなりがちです。いざというとき、会社に払える財源があるかどうかで、その後の数年が変わります。

この記事では、社長の死亡退職金の財源が決まっていない会社で起きる3つの落とし穴を、連鎖の順に解説します。解説するのは、保険代理店で1,100名以上のご相談を受けてきたFP1級の筆者です。

結論

  • 財源がないと、支払いのために借入れが必要になり、資金繰りが悪化する連鎖が起きやすくなります。
  • 落とし穴は、借入れの穴埋め・決議と金額の対立・運転資金の枯渇の3つです。
  • 財源を考える手段として、法人が契約する保険の保険金を原資にする考え方があります。税務の個別判断は税理士の領域です。

この記事で分かること

  • 財源がないときに起きる3つの落とし穴
  • 準備が後回しになる2つの背景
  • 財源を考える手順と、手段を比べる表
  • 足りない場合と重すぎる場合の失敗
  • 今週できる確認チェックリスト

1. 社長の死亡退職金の財源がないとき、会社に起きる3つの落とし穴

財源がないと、借入れ・決議・資金繰りの順に、問題が連鎖します。順に見ます。

1-1. 落とし穴1|借入れで穴埋めして、返済が重くなる

手元の預金だけで払えなければ、金融機関から借りて支払うことになります。

ただ、社長に万一があった直後は、会社の信用も揺れやすい時期です。借りられたとしても、返済が毎月の負担として残ります。

たとえば、専務が遺族への支払いのために借入れを組んだとします。返済が運転資金を圧迫し、数年にわたって賞与や設備投資が後回しになります。

1-2. 落とし穴2|金額が決まらず、遺族と会社の間に溝ができる

取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)

財源が見えないと、決議の場で金額の議論が進みません。遺族は支払いの見通しが立たず、会社への不信が生まれることがあります。

支払う額が高すぎても問題になります。不相当に高額な部分は、損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)

1-3. 落とし穴3|支払ったあと、運転資金が尽きる

退職金を払い切ると、仕入や給与の支払いに回す資金が足りなくなる場合があります。

経理担当者が月末の資金表を見て、数か月先の支払いが賄えないと気づく場面です。取引先への支払いが遅れれば、信用にも響きます。

要するに、借入れ・決議・運転資金の3つが、財源がない会社に連鎖して起きる落とし穴です。

2. 死亡退職金の財源の準備が後回しになる背景

後回しになる背景は、金額のイメージが湧かないことと、万一を話しにくいことの2つです。整理します。

2-1. 退職金の額が、普段は見えない

役員退職金は、在任期間や功績を踏まえて決めるため、日ごろは試算されません。

経理担当者も、金額を聞かれたことがなく、貸借対照表の中でどれだけ備えがあるかを見たことがありません。

2-2. 社長の万一を、口に出しにくい

社長本人が元気なうちは、周囲から万一の話を切り出しにくいものです。

専務や経理担当者が気づいていても、社長の考えを聞けず、話し合いが始まらない会社があります。

決める立場の社長から、年に一度、数字を並べる場を設けると、話が動き出します。

要するに、額が見えないことと、話しにくさが、財源の準備を遅らせます。

3. 死亡退職金の財源を考える手順と手段の比べ方

手順は、必要な額を見積もり、手段を並べ、資金繰りを確かめる順です。落とし穴ごとの対処を表で整理します。

落とし穴 起きること 事前の確認
1. 借入れの穴埋め 返済が運転資金を圧迫する 手元資金で賄える範囲と、不足の見込み
2. 決議と金額の対立 遺族への支払いが遅れる 役員退職慰労金の規程と、決議の手順
3. 運転資金の枯渇 仕入や給与の支払いが苦しくなる 支払い後の資金表の見通し
  1. 役員退職慰労金の規程の有無と、支給の考え方を確かめます。
  2. 顧問税理士に、おおよその支給額の幅を試算してもらいます。
  3. 手元資金・内部留保・法人が契約する保険の保険金など、財源の手段を並べます。
  4. 支払った後の資金繰りを、数か月先まで確かめます。

法人が契約する保険は、承継・相続の資金を用意する目的のひとつです。法人が受け取る死亡保険金は益金になるため、受け取り後の資金繰りまで見て考えます。(出所:法人税法第22条第2項)受け取り後の資金の動きは、法人の死亡保険金を受け取った後の資金繰りで解説しています。

保険料の損金算入は、2019年(令和元年)の通達改正後の扱いで、契約の種類により変わります。経理処理は税理士の領域です。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

自社株の相続税 納税資金を法人保険で備える視点

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。役員退職慰労金の規程の有無と、現在の資金の状況をお聞かせください。

\無料相談(30秒で予約)/

要するに、額の見積もり・手段の比較・支払い後の資金繰りを、順に確かめます。

4. 財源の準備で起きやすい失敗|足りない場合と重い場合

失敗は、備えが薄い場合と、備えが重すぎる場合の両方で起きます。決める立場の社長と、支払いを見る経理担当者の場面です。

4-1. 備えが足りない場面

  • 財源を決めないまま、毎年の決算を迎える:社長に万一があったとき、経理担当者が支払いの原資を探して、金融機関へ相談する流れになります。
  • 規程がないまま過ごす:専務が、遺族への支払いの額と時期を、その場で決めなければなりません。
  • 支払い後の資金繰りを見ない:財源があっても、退職金の支払いと同時期に借入金の返済が重なることがあります。

4-2. 備えが重すぎる場面

  • 将来の退職金に合わせて、大きな保険料を払う:毎月の保険料が重く、平時の運転資金や賞与の原資が削られます。
  • 財源を一つの手段に偏らせる:手元資金が薄いまま、保険に頼りすぎると、急な資金需要に対応しにくくなります。

社長の年齢や会社の利益に応じて、毎年の決算期に額を見直します。

要するに、足りなくても重すぎても、会社の資金繰りに響きます。

5. 今週できる死亡退職金の財源の確認チェックリスト

まずは、規程と数字の2つを確かめます。

  • 役員退職慰労金の規程があるかを確かめた。
  • 顧問税理士に、おおよその支給額の幅を尋ねる日を決めた。
  • 手元資金のうち、退職金に回せる範囲を書き出した。
  • 加入中の法人契約の保険が、財源に使えるかを確認した。
  • 退職金の支払い後の数か月の資金繰りを、一度試算した。

あわせて読みたい

6. 死亡退職金の財源に関するよくある質問

Q1. 社長の死亡退職金は、会社に支払う義務が自動で生じますか。

自動的に決まるものではありません。取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。(出所:会社法第361条第1項)規程の有無や遺族との関係は、弁護士・税理士に確認してください。

Q2. 死亡退職金の財源がないと、どうなりますか。

手元の預金で足りなければ、借入れで穴埋めする場面が出ます。返済の負担が運転資金を圧迫し、資金繰りが悪化することがあります。財源の有無は、平時のうちに確かめておく必要があります。

Q3. 死亡退職金は、いくらでも損金にできますか。

不相当に高額な部分は損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)判断の要素は、在任期間・退職の事情・同種同規模の法人の支給状況です。金額は顧問税理士にご確認ください。

Q4. 法人が契約した保険の保険金を、財源にできますか。

財源にする考え方があります。法人が受け取る死亡保険金は益金になるため、受け取り後の資金繰りも含めて検討します。(出所:法人税法第22条第2項)個別の経理は税理士の領域です。

Q5. 非課税枠の話は、この記事では扱わないのですか。

遺族側の相続税の非課税枠は、別の記事で詳しく扱っています。この記事では、会社側の財源がない場合に何が起きるかに絞っています。

Q6. 遺族に早く支払わないと、問題になりますか。

支払いの時期が遅れると、遺族の生活費に影響します。死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金等が、相続税の扱いの対象になります。(出所:相続税法第3条第1項第2号)時期は税理士と確認してください。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 死亡退職金の財源がないと、借入れ・決議と金額の対立・運転資金の枯渇という連鎖が起きやすくなります。
  • 規程の確認、支給額の試算、財源の手段の比較、支払い後の資金繰りの確認の順に進めます。
  • 備えは、足りなくても重すぎても負担になります。
  • 税務の個別判断は、税理士の領域です。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。会社の資金の状況をもとに、財源の置き場所を一緒に整理します。

\無料相談(30秒で予約)/

筆者は、法人保険の相談で、決める社長ご本人と最初から向き合うことを大切にしています。正しい説明だけでなく、社長ご自身が納得して選べるようになることを目指して、お話を伺っています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

法人保険のご相談

\経営者さま向け 法人保険のご相談/

「社長交代を機に保険を見直したい」「役員・従業員の退職金や福利厚生を整えたい」「万一のときの資金繰りが心配」――会社を守る備えについて、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)がお話を伺います。

法人保険の相談を申し込む