【まず確認】役員退職金の功績倍率 計算の考え方と3つの比較方法
勇退の時期が見えてきた社長が、顧問税理士と向き合う場面があります。
「最後の月額報酬に、在任年数と倍率を掛ければよい、と聞いた。この数字で、本当に会社の経費として認められるのだろうか」。
役員退職金の相談では、こうした「金額をどう決めれば、あとから問題にならないか」というお話をよくいただきます。
この記事では、最終報酬月額×在任年数×功績倍率という考え方と、不相当に高額な部分は損金にならないという税法の定め、同業類似法人と比べる3つの手法を整理します。倍率の数字は、公的な基準がないため挙げません。
解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。
結論
- 功績倍率法は、金額を考えるための実務上の方法です。法律に定められた計算式ではありません。
- 不相当に高額な部分は損金になりません。比較の手法は、平均功績倍率法・最高功績倍率法・1年当たり平均額法の3つです。
- 高く見積もりすぎれば否認の恐れがあり、低く抑えすぎれば社長の暮らしの資金が足りなくなります。税務の個別判断は税理士の領域です。
この記事で分かること
- 役員退職金の金額で迷いやすい3つの場面
- 功績倍率法の考え方と、損金にならない部分の定め
- 同業類似法人と比べる3つの手法
- 今週できる確認チェックリスト
1. 役員退職金の功績倍率で計算するときに迷う3つの場面
迷うのは、計算式を作るとき、退職の直前に報酬を動かすとき、同業と比べるときの3つの場面です。順に見ていきます。
1-1. 計算式に入れる数字が決まらない
最終報酬月額・在任年数・功績倍率の3つのうち、倍率は人によって言うことが違います。インターネットの情報や知人の話で、数字がひとり歩きしがちです。
たとえば、同業の社長仲間から聞いた倍率をそのまま当てはめた計算書が、手元にあったとします。その倍率に根拠がなければ、説明できる資料になりません。
1-2. 退職の直前に、役員報酬を動かそうとする
最終報酬月額を基礎にする計算では、直前の月額が結果を左右します。そのため、退職の前に報酬を上げようと考える会社があります。
実務の解説では、退職の直前に役員報酬を大きく引き上げたり、過大な倍率を設定したりした場合は、不相当に高額と見られる恐れが高まるとされています。(出所:税理士会等の解説)
1-3. 同業と比べる方法が分からない
「同業の相場」と言われても、どの会社と、どの数字を、どう比べるのかが分かりません。
たとえば、経理担当者が同業の数字を探しても、公開されている情報には限りがあります。比べ方の型を知らないと、資料が集まりません。
要するに、倍率の根拠・直前の報酬・同業との比べ方の3つが、役員退職金の金額で迷う場面です。
2. 功績倍率の数字だけでは決められない理由
決められない理由は、公的な基準がないことと、裁判例の判断が分かれることの2つです。整理します。
2-1. 倍率には、法律や政令の定めがない
不相当に高額な役員退職給与の部分は、損金になりません。(出所:法人税法第34条第2項)
何が不相当に高額かは、役員として業務に従事した期間・退職の事情・同種の事業を営む法人で事業規模が似たものの役員に対する退職給与の支給状況などに照らして判断されます。(出所:法人税法施行令第70条第2号)
この条文に、倍率の数値はありません。功績倍率は、金額の目安を作るために実務や裁判の場で使われてきた考え方です。
2-2. 裁判例も、判断が分かれている
裁判例の解説では、同業類似法人の平均を使う方法を、最も合理的な方法とした例が紹介されています。一方で、退職の直前に報酬が大きく引き下げられたなどの特別な事情があるときは、別の方法も合理的とした例が紹介されています。(出所:税理士・弁護士事務所等の判例解説。判決文そのものの確認は専門家へ)
つまり、1つの方法をすべての会社に当てはめられるわけではありません。会社ごとの事情で、説明の仕方が変わります。
要するに、倍率の定めがなく、裁判例の判断も分かれるため、数字だけで金額を決められません。
3. 役員退職金の功績倍率と同業類似法人を比べる3つの手法
比べる手法は、平均功績倍率法・最高功績倍率法・1年当たり平均額法の3つです。まず、基本の計算の考え方を表で見ます。
| 要素 | 内容 | 確認すること |
| 最終報酬月額 | 退職した時点の役員報酬の月額 | 直前に大きく動かしていないか |
| 役員在任年数 | 役員として業務に従事した期間 | 実質的に経営に関わった期間の扱いは税理士に確認 |
| 功績倍率 | 役員ごとの功績を表す倍率(公的な基準はない) | 同業類似法人との比較で説明できるか |
(出所:法人税法施行令第70条第2号、実務上の一般的な考え方)
3-1. 手法1|平均功績倍率法
同業類似法人の功績倍率の平均を、自社の役員に当てはめる方法です。裁判例の解説では、類似法人の抽出が合理的に行われている限り、平均を使うことが合理的な方法とされた例が多く紹介されています。(出所:判例解説)
3-2. 手法2|最高功績倍率法
同業類似法人の功績倍率の最高値を当てはめる方法です。納税者側が主張することがあるものの、採用されなかった例も紹介されています。最高値を使いたい場合は、その理由を説明できる資料が要ります。(出所:判例解説)
3-3. 手法3|1年当たり平均額法
同業類似法人の、在任1年当たりの退職金の平均額に、自社の役員の在任年数を掛ける方法です。最終報酬月額が在任中の功績を映していない場合に使われます。退職の直前に報酬が大きく引き下げられた事案で、この方法も合理的とされた例が紹介されています。(出所:判例解説)
手順は、次のとおりです。
- 最終報酬月額と在任年数を、報酬の推移の資料とあわせて整理します。
- 役員報酬規程と退職金規程が、いつ定められたかを確かめます。
- 同業類似法人の資料を、専門家と一緒に集めます。
- 3つの手法で試算し、差が出た理由を言葉にします。
- 金額を株主総会の決議にかける準備をします。
この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。
【まるっと解説】勇退退職金の準備|社長のセカンドライフ5つの手順
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要するに、3つの手法で試算し、差の理由を説明できる状態にしておきます。
4. 役員退職金の金額で起きやすい失敗|削りすぎと過剰
金額を低く抑えすぎる失敗と、高く見積もりすぎる失敗の、両方があります。対にして見ます。
4-1. 削りすぎ|根拠のないまま低く抑えて、暮らしの資金が足りなくなる
- 場面1:たとえば、社長が「損金にならないと困る」と、金額を大きく下げたとします。勇退後の暮らしの資金が足りず、数年後に会社へ追加の支払いを求めることになりかねません。
- 場面2:たとえば、規程がないまま、社長が金額を口頭で決めていたとします。万一の際に、ご家族と後任の役員が金額の根拠を示せず、判断が止まります。
4-2. 過剰|他社の話に引っ張られて、金額を上乗せする
- 場面1:たとえば、同業の社長から聞いた高い倍率に合わせて、計算書を作ったとします。裏づけがなければ、不相当に高額と見られた部分が損金にならない恐れがあります。
- 場面2:たとえば、退職の1年前に役員報酬を大きく上げたとします。長い期間の水準と比べて説明できないと、金額の根拠が弱くなります。
金額を決めるときは、社長の暮らしの資金の必要額と、会社が無理なく払える範囲の両方を並べます。財源の考え方は、役員退職金を払ったあとの資金繰りの記事で整理しています。
要するに、低すぎても高すぎても、根拠が弱ければ後で困ります。
5. 今週できる役員退職金の金額の確認チェックリスト
今週できることは、数字の整理と、規程の有無の確認の2つです。
- 役員報酬の推移を、数年分まとめた
- 在任年数と、実質的に経営に関わった期間を整理した
- 役員退職金規程が、いつ作られたかを確かめた
- 倍率を、根拠のある資料から考える方針にした
- 3つの比較手法を、税理士に相談する項目に加えた
あわせて読みたい記事です。
6. 役員退職金の功績倍率に関するよくある質問
Q1. 功績倍率は、いくつにすれば認められますか。
公的に決まった倍率はありません。法人税法施行令第70条第2号は、役員として業務に従事した期間・退職の事情・同種の事業で規模が似た法人の支給状況などに照らして判断するとしています。倍率の数字だけで結論は出ないため、この記事では数値を挙げません。個別の判断は税理士にご確認ください。
Q2. 役員退職金の計算式は、法律で決まっていますか。
法律や政令に、最終報酬月額×在任年数×功績倍率という計算式そのものは書かれていません。功績倍率法は、金額を考える実務上の方法として使われているものです。損金になるかどうかは、法人税法第34条第2項と同法施行令第70条第2号の考え方で判断されます。
Q3. 同業類似法人の情報は、どうやって集めますか。
集め方や抽出の仕方は、この記事の範囲では確認できていないため、述べません。比較の対象をどう選ぶかで結果が変わるため、税理士などの専門家に相談して進めてください。
Q4. 退職の直前に役員報酬を上げると、退職金は増やせますか。
最終報酬月額を基礎にする計算では、直前の増額で数字が大きくなります。ただし、実務の解説では、直前の増額は「不相当に高額」と見られる要因になりうるとされています。長い期間の報酬の水準と比べて説明できるかを、先に確認してください。
Q5. 平均功績倍率法と最高功績倍率法は、どちらを使えばよいですか。
裁判例の解説では、同業類似法人の平均を使う平均功績倍率法を合理的とする判断が多く紹介されています。最高値を使う考え方は、納税者側が主張することがあるものの、採用されなかった例も紹介されています。裁判例の判断は分かれるため、どれを選ぶかは専門家と検討してください。
Q6. 退職金を決めたら、損金にするのはいつですか。
原則として、株主総会の決議などで金額が確定した日の属する事業年度とされています(出所:法人税基本通達9-2-28)。取締役の退職慰労金は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます(出所:会社法第361条第1項)。規程と決議の手順は、先に整えておきます。
7. まとめ
- 功績倍率法は実務上の方法で、不相当に高額な部分は損金になりません(出所:法人税法第34条第2項、同法施行令第70条第2号)。
- 比べる手法は、平均功績倍率法・最高功績倍率法・1年当たり平均額法の3つです。裁判例の判断は分かれます。
- 低く抑えすぎれば暮らしの資金が、高く見積もりすぎれば否認の恐れが残ります。
- 金額の適否など、税務の個別判断は税理士の領域です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。お断りいただいて構いません。報酬の推移と規程をもとに、金額の考え方を一緒に整理します。
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筆者は、社長にとっての「その時」は突然訪れるとは限らず、勇退の日もそのひとつだと考えています。長年会社を支えてきた社長が、準備した財源で次の暮らしに進めるよう、数字に載らない想いも伺いながら一緒に整理します。
筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。
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