社長が他界した直後、後継者が税理士から相続税の試算を受け取る場面があります。自社株の評価額が大きく、金額の欄を見て手が止まります。「会社の株が財産の大半で、預金はほとんどない。この税金は、どう払うのか」。

相続税は、申告と同じ時期に、現金で納めるのが原則です。自社株は現金ではないため、評価額が高い会社ほど、納税の資金が課題になります。

現金で払えないときの公的な仕組みとして、国税庁が案内している延納と物納があります。ただし、どちらも誰でも自由に選べるものではなく、条件と手続きがあります。

この記事では、相続税を現金で払えないときの延納・物納について、国税庁の案内にもとづいて整理し、自社株の会社が押さえる3つの判断軸を解説します。解説するのは、FP1級の資格を持つ筆者です。

結論

  • 延納と物納は、金銭で納めることが難しい場合の制度です。延納を先に検討し、物納は延納でも難しい場合に限られます。
  • 判断軸は、現金で納める道の確認・延納の担保と利子税・物納の要件と順位の3つです。
  • どちらも担保・利子・財産の手放しを伴います。事前に現金の見通しを立てておくほど、選べる道が広がります。

この記事で分かること

  • 自社株が財産の大半を占める会社で、納税に困る3つの場面
  • 延納・物納が「最後の出口」と呼ばれる理由
  • 延納の担保・利子税、物納の要件・順位の考え方
  • 備えが足りない場合と、公的制度に頼りすぎる場合の失敗場面

1. 相続税を現金で払えない自社株の会社に起きる3つの場面

納税の資金は、評価額の確定・申告の期限・資金の用意の3つの場面で課題になります。順に見ていきます。

1-1. 株の評価額は大きいが、預金が少ない

自社株は、売って現金にできる株ではありません。後継者が引き継いだ株の評価額が大きくても、自由に使える預金は別です。

たとえば、後継者が相続した財産の大半が自社株と事業用の土地だったとします。税額を示されても、それを払う現金が手元にありません。

1-2. 申告の期限が、思ったより早く来る

相続税の申告と納付は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内が期限です。(出所:国税庁)

株の評価額の確定、遺産分割の話し合い、書類集めは、この期間に進みます。社長が他界した直後は、会社の運営と重なり、納税の資金づくりが後回しになります。

1-3. 会社から資金を出すと、別の問題が生じる

会社の資金を後継者に回したい場合でも、手続きに制約があります。たとえば、会社が株を買い取る方法では、分配可能額の範囲内であることなどが条件です。(出所:会社法第461条)

この方法では、株を売った側にみなし配当の課税が生じる場合もあります。(出所:所得税法第25条)詳細は税理士に確認してください。

要するに、評価額と預金の差・短い申告期間・会社資金の制約の3つが、納税の資金を難しくします。

2. 延納・物納が「最後の出口」と呼ばれる背景

延納・物納は、金銭で納める原則を前提にした、例外の制度だからです。整理します。

2-1. 金銭での納付が原則である

国税は金銭で納めるのが原則です。相続税に限って、延納によっても金銭で納めることが難しい事情がある場合に、申請により、その納付が難しい金額を限度として、物納ができるとされています。(出所:国税庁タックスアンサーNo.4214)

つまり、物納は、まず現金で納めることを検討し、次に延納を検討し、それでも難しい場合の仕組みです。順番が決まっています。

2-2. 申請と審査が必要で、自動では認められない

延納も物納も、納期限までに申請書と書類を税務署へ提出する必要があります。(出所:国税庁)

許可か却下かは税務署長が判断します。申請したからといって、そのまま認められるわけではありません。

「いざとなれば物納があるから」と考えて準備を後回しにすると、条件に合わず、選べない場面が出るおそれがあります。

要するに、金銭納付が原則で、延納・物納は申請と審査を経る例外のため、事前の準備が前提になります。

3. 相続税の延納・物納を考える3つの判断軸

判断軸は、現金で納める道の確認・延納の担保と利子税・物納の要件と順位の3つです。まず全体を表で整理します。

判断軸 確かめること 確認する相手
1. 現金で納める道 手元資金・会社からの支払い・借入れで、どこまで賄えるか 税理士
2. 延納 担保になる財産があるか、利子税を払い続けられるか 税理士・税務署
3. 物納 延納でも難しいか、財産が要件と順位に合うか 税理士・税務署

3-1. 判断軸1|現金で納める道を、先に確かめる

延納も物納も、現金で納める道を確かめたあとの選択肢です。

申請では、相続人ご自身の財産を含めて、いくら納められるかを整理する必要があります。(出所:国税庁)

たとえば、後継者の預金、相続で受け取る現金、会社からの正当な支払いなどを並べてみます。足りない金額がはっきりして、はじめて延納や物納の検討に入れます。

この整理は、相続が起きてからでは時間がありません。平時に概算を出しておくと、見通しが立てやすくなります。

3-2. 判断軸2|延納の担保と利子税を確かめる

延納は、相続税額が10万円を超え、金銭で一度に納めることが難しい場合に、分割して納める制度です。(出所:国税庁タックスアンサーNo.4211)

押さえる点は、次のとおりです。

  • 担保:原則として、延納税額と利子税に見合う担保が要ります。延納税額が100万円まで、かつ延納期間が3年までの場合は、担保が不要とされています。(出所:国税庁)以前の基準は50万円で、古い解説には50万円と書かれたものもあるため、申請の時点の国税庁の資料で確認してください。
  • 利子税:延納の期間中は利子税がかかります。(出所:国税庁)
  • 期間:延納できる最長の期間と利子税の割合は、財産に占める不動産等の割合などで区分されています。(出所:国税庁)

利子税の割合は、区分と年ごとの基準で変わります。具体の数字は、申請の時点の国税庁の資料で確認してください。

自社株が中心の会社では、担保にできる財産が限られる場合があります。担保になる財産の種類と、評価の考え方は、税務署と税理士に確認します。

延納は、払う時期を延ばす制度であり、税額が減る制度ではありません。利子税の分だけ、負担は増えます。

3-3. 判断軸3|物納の要件と順位を確かめる

物納は、延納によっても金銭で納めることが難しい事情があり、その難しい金額を限度として申請できます。(出所:国税庁タックスアンサーNo.4214)

物納に充てる財産には、種類ごとの順位があります。国税庁の案内では、次のとおりです。

  1. 第1順位:不動産、船舶、国債、地方債、上場株式など
  2. 第2順位:非上場株式など
  3. 第3順位:動産

非上場株式は、自社株のことです。第2順位とされていて、先の順位の財産に適当なものがない場合などに、物納に充てられます。(出所:国税庁)

また、管理や処分に適さない財産は、物納の対象から外れるとされています。(出所:国税庁)非上場株式が個別の事情で物納に充てられるかは、定款の定めや会社の状況によって変わると考えられます。税務署と税理士に事前に相談してください。

物納は、株を国に納めることでもあります。経営権や、後継者が株を持つ意味にも関わります。物納が許可されても、会社の株の行き先が変わる点を、家族で話し合っておく必要があります。

この記事では要点に絞って解説しました。全体像から手順・注意点までまとめて知りたい方は、次の記事で詳しく解説しています。

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要するに、現金で納める道・延納の担保と利子税・物納の要件と順位の3つを、順に確かめます。

4. 備えが足りない場合と、公的制度に頼りすぎる場合の失敗場面

失敗は、備えを置いたままの側と、延納・物納を前提にしすぎる側で起きます。対にして見ていきます。

4-1. 備えが足りない場面

  • 評価額の概算がない:たとえば、社長が自社株の評価額を確かめないまま他界したとします。後継者は、申告の期間のなかで、税額と資金の不足を初めて知ります。
  • 担保になる財産がない:たとえば、延納を検討したものの、担保にできる財産が限られていたとします。延納の許可が得られにくくなる場面があります。
  • 手続きの期限を知らない:たとえば、経理担当者が申請の期限を確かめず、書類の準備が間に合わなかったとします。選びたかった方法が、使えなくなるおそれがあります。

4-2. 公的制度に頼りすぎる場面

  • 物納を前提にしてしまう:たとえば、社長が「払えなければ株で納めればよい」と考えて、準備をしなかったとします。株を手放すと、後継者の経営権が揺らぎます。
  • 利子税の負担を見ていない:たとえば、延納で分割にしたものの、利子税を含めた毎年の支払いを計算していなかったとします。会社や後継者の資金繰りが、毎年苦しくなります。
  • 備えを過剰に重ねる:たとえば、納税の資金を心配しすぎて、保険料の大きい契約を重ねたとします。平時の資金繰りが苦しくなり、本末転倒になります。

延納・物納は、備えの代わりではなく、備えたうえでもなお残る事態への、公的な受け皿です。

要するに、概算・担保・期限の準備不足も、物納に頼りきる姿勢も、後継者の負担を重くします。

5. 今週できる納税資金の確認チェックリスト

手続きの前に、今週は次の5つを確かめます。

  • 自社株の評価額の概算を、顧問税理士に尋ねる予定を入れた
  • 後継者が、相続のときに使える現金の目安を書き出した
  • 担保にできそうな財産を、一覧にした
  • 相続の開始から10か月という期間を、家族で共有した
  • 延納・物納の相談先として、税務署と税理士の連絡先を控えた

数字が分からなくても、一覧を作ることが出発点です。足りない部分が見えたら、現金を用意する方法を、複数並べて比べます。

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要するに、概算・現金・担保・期間・相談先の5つを、手続きの前に確かめます。

6. 相続税の延納・物納のよくある質問

Q1. 相続税が払えなければ、すぐに物納できますか。

すぐにはできません。物納は、延納によっても金銭で納めることが難しい場合に、その難しい金額を限度として認められます。(出所:国税庁タックスアンサーNo.4214)まず現金、次に延納の順で検討します。

Q2. 延納するには、担保が必要ですか。

原則として必要です。延納税額が100万円まで、かつ延納期間が3年までの場合は、担保が不要とされています。(出所:国税庁タックスアンサーNo.4211)自社の場合にどちらにあたるかは、税務署と税理士に確認してください。

Q3. 延納すると、利子はかかりますか。

延納の期間中は、利子税がかかります。(出所:国税庁)割合は区分と年ごとの基準で変わるため、申請の時点の国税庁の資料で確認してください。

Q4. 非上場株式は、物納できますか。

物納に充てる財産の順位では、非上場株式は第2順位とされています。(出所:国税庁タックスアンサーNo.4214)ただし、個別の株式が物納に適するかは事情で変わると考えられます。事前に税務署と税理士に相談してください。

Q5. 延納や物納の申請は、いつまでにしますか。

相続税の納期限までに、申請書と書類を税務署へ提出する必要があります。(出所:国税庁)納期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内が基本です。個別の期限は税務署で確認してください。

Q6. 延納や物納を前提に、準備をしなくてもよいですか。

おすすめできません。延納には担保と利子税が、物納には要件と順位があり、申請しても許可されるとは限りません。納税の資金の見通しは、平時のうちに立てておくと選べる道が広がります。

7. まとめ

この記事のまとめ
  • 相続税は金銭で納めるのが原則で、延納・物納は難しい場合の例外です(出所:国税庁)。
  • 判断軸は、現金で納める道・延納の担保と利子税・物納の要件と順位の3つです。
  • 非上場株式は、物納の順位では第2順位とされていますが、個別の可否は税務署と税理士に確認してください。
  • 備えを置いたままも、公的制度に頼りきるのも、後継者の負担を重くします。

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筆者は、保険を、人が一番つらい「その時」に心と暮らしを支えるものだと考えています。商品の話より先に、会社の数字と、守りたい人のお話を伺うことを大切にしています。

筆者の考えや経歴は、プロフィールにまとめています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険商品の推奨や個別の勧誘ではありません。税制・制度は改正される場合があります。実行前に顧問税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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